リスク移転で、経済のレジリエンスを強化
現在:
気候変動や自然災害はアセット評価に負の影響をもたらし、金融市場に不安定を生じさせるものです。こうしたリスクの検討において、アセットマネージャーや金融機関では個々のアセットの特性ばかりに目が向くことが多く、周囲のインフラや地域社会といった「枠外」のリスクはあまり考慮されません。
- 多くの企業は、様々な種類、異なる分野のアセットが分散して存在するようなエクスポージャーを有している一方、アセット評価に影響を及ぼし得る物理的リスクを分析する術は持ち合わせていません。
- リスク軽減に向けた投資は不完全な方法で行われることが多く、最適なROI実現のための集中的な改善に必要なデータが考慮されないケースがほとんどです。
- 投資家や株主に対し正確に気候関連リスクを開示することは、困難であるか、ほぼ不可能です。
- 金融機関はリスクの評価と貨幣価値化を任されていますが、気候変動や自然災害のリスクについては、多くの場合、そのリスクを評価するためのツールを持っていません。
- サステナブル投資はESG要素のみに特化していることが多く、本来は必要性の高い気候レジリエンスは重視されていません。
未来:
金融機関は、ポートフォリオや事業に対する気候リスクを正しく定量化できるよう、単なるアセットごとのリスク評価ではなく、総合的な気候分析・統計データを組み込んだ包括的なレジリエンスの測定へと歩みを進める必要があります。
ライフライン全体のリスクを理解できれば、金融機関はポートフォリオ全体のレジリエンスを強化することができます。レジリエンスを起点とするこうしたアプローチには、以下が含まれます。
気候ストレステスト:金融業界はレジリエンス・インテリジェンスを活用し、自然災害が生じた際に自社のアセット価値や貸付ポートフォリオに及ぶ影響を特定することができます。またリバースストレステストによって、自社の事業モデルに最も大きな危険が及ぶシナリオを特定することもできます。
リスク選定とデューディリジェンス:アセットマネージャーや銀行は、気候変動が不動産やその周囲のライフラインにもたらす影響の予測など、これから所有しようとするアセットの購入前に適切に真の脆弱性を評価することができます。
的確なリスク軽減:災害発生時に最初に停止するビジネスライフライン(電力や輸送手段など)はどれか、停止状態がどの程度続くかについて、行動につなげられる明確なインサイトを得ることができれば、金融機関は減災予算を効果的に使うための優先順位付けを行うことができます。そうすることで、適切なリスクを軽減し、損失を最小化できます。
レジリエンスを考慮したアセット評価:アセットマネージャーは、気候変動や異常気象に対するレジリエンスを含め、アセットの正しい価値を理解することができます。
業界ベンチマーク:投資家やアナリスト、アセットマネージャーは、レジリエンスを測る基準としてベンチマークを活用し、同業他社と比べた自社の状態を把握することができます。
プライベート・エクイティ:金融業界はレジリエンス・インテリジェンスを生かし、ESG情報開示やアセット評価、企業としての取り組みにレジリエンスを組み込むことができます。
実現への道筋:
One Concernのアナリティクスは、気候変動により深刻化しているハザードも含め、さまざまなハザードに対するレジリエンスをアセット単位で可視化します。アセットに対する直接的な被害の確率と、ライフラインとのつながりが断たれた時に生じる事業中断(ダウンタイム)という間接的な被害の確率を考慮に入れれば、アセット評価やリスクモデルを補強することができます(例えば、電力網が7日間以上停止する確率を計算する、あるいは、30年の計画期間に対する電力網の洪水リスクを計算する、など)。当社のモデルによる超過確率(1CEP™)は、起こりうるハザードの可能性や、アセットの減損をもたらす直接・間接的な各種要因を統合します。またダウンタイム統計値(1CDS™)は、不動産の減損を生じさせる自然災害が起きた場合のアセットのダウンタイムの予測を提供します。1CDS™を財務損失に変換した期待財務損失(1CEL™)は、財務評価やリスクモデルに直接統合することができます。
金融機関では、以下の領域での活用を想定しています。
レジリエンスリスク選定:リスク選定作業を補完し、スクリーニングツールにレジリエンスを組み込む(ESG指標を組み込む際と同様に、レジリエンス(R)を追加してサステナビリティ分析の範囲を広げ、リスク選定時にESG+Rの観点が考慮されるようにする)
レジリエンスを考慮した評価:事業用不動産に関連するアセット評価やリスクモデルにおいてレジリエンスを考慮する
気候モデリング:気候変動を考慮したシナリオ分析を発展させ、直接・間接的にアセットの機能低下をもたらす要因の発生可能性を調べる
業界ベンチマーク:アセットポートフォリオのレジリエンス分析のベンチマークを提供する
的確なリスク軽減:リスク軽減の取り組みを特定・評価(比較できるよう一貫した費用対効果を計算)し、事業用不動産への事業の依存度を踏まえながら、アセットと事業両方のレジリエンスを高める
ESG+Rに関する情報開示:気候適応、集中的なリスク軽減、スクリーニングに関する情報を開示・公開する
投資先に対するエンゲージメント:事業継続計画やリスク軽減の取り組みを通じて、ポートフォリオに含まれる企業へのエンゲージメントを強化する
レジリエンス指標のばらつきの評価や適切なレジリエンス指標が発展し、今後分析が進化すれば、リスク要因モデルや、さらにはポートフォリオマネジメントにまで、レジリエンスを組み込む範囲を拡張できるようになります。そして銀行では、レジリエンスを考慮した上で、ポートフォリオ資本の見積もりやポートフォリオのシナリオ分析、ストレステスト、リバースストレステストを行えるようになります。こうした分析によって、拠点や地域、時間の枠を超えて一貫した比較やベンチマークを行うことが容易になります。