One Concern 洪水・地震エンジニアリングリードの堺淳一が、2021年8月25日(水)に開催された、京都大学プラットフォーム学卓越大学院主催のプラットフォーム学連続セミナーVol. 2「災害レジリエンスとプラットフォーム学」にパネル登壇しました。

このセミナーでは「防災×プラットフォーム学」をテーマに、SDGsのゴール11「住み続けられるまちづくりを」への貢献や、予期される巨大災害の対策に向けて、災害レジリエンスの構築に取り組む企業担当者や京都大学の研究者と、「日本沈没」、「シン・ウルトラマン」等のクライシス映画で知られる樋口真嗣監督が防災について語りました。

セミナー登壇者

  • 樋口 真嗣 氏 / 映画監督
  • 荒川 剛 氏 / パナソニック株式会社 ビジネスソリューション本部CRE事業推進部総括兼Fujisawa SSTマネジメント株式会社 代表取締役社長
  • 畑山 満則 教授  / 京都大学 防災研究所附属巨大災害研究センター
  • 原田 博司 教授 / 京都大学 プラットフォーム学卓越大学院  教授(プログラムコーディネーター)
  • 堺 淳一 / One Concern株式会社 洪水・地震エンジニアリングリード

各登壇者の災害に関する取り組みについてのプレゼンテーション後、原田教授がモデレーターとなり、ディスカッションが行われました。

映画は注意喚起、希望をもたせる位置づけのプラットフォームにもなりうる

始めに、原田教授が「映画というのは日常で体験できないスペクタクルでありながら、災害に関しては問題提起、新たな視点を出す上での一つの入り口として大きなプラットフォームだと考えられます」と持論を展開されました。

それに対し、樋口監督は「一般的に映画のラストカットというのは希望で終わります。しかし、人生は映画のようにそこで終わりません。日常を取り戻す、復旧しないといけない。そこは映画ではできないこと。そこをどういうふうにやっていくかということが重要だなと思います」と語り、「災害映画だけではなく、未来をどう提示していくのかという役割が映画にあると考えています。それが最近は更新されていません。これまでの映画では、管理される社会というのが否定的に描かれてきました。実際は管理されないとダメなことが多い。いい意味で管理される社会を明確に提示できないといけないなと思います」と映画のプラットフォームとしての役割について語られました。

産官学が連携して新しい社会を創る研究のプラットフォーム

防災で気になる点として映画監督の樋口氏から「リーダーが何をするべきか、いろんなことがひっ迫したときに優先度をどうするか、意思決定をどうしていくのか」ということが挙げられました。

それに対し、畑山教授は「私たちは『マネジメント』と呼んでいますが、意思決定者が一人で、最終的に誰かが意思決定をすれば皆が従うというモデルがあります。しかし、複数の意思決定者がいるモデルにしないと対応できないのではないかと考えています。東日本大震災はまさにその一つの例。国の決定を待っていると現場が動かないというのを目の当たりにしたと思います。上下の統制だけでは対応できない問題があります。複数の意思決定者がお互いに協調しているように見える状態を『ガバナンス』が効いていると呼んでいて、『ガバナンス』が効いている状態を作るのが一番重要だと考えています。小さめの災害だと『マネジメント』とのほうが上手くいきますが、東日本大震災クラスだと『ガバナンス』が効いている状態が重要になります」と語られました。

樋口監督からの「都道府県のセクターに分ける行政主導の対応ではなく、もう少し広い範囲で対応する違う分け方はできないのでしょうか」という問題提起に対して、畑山氏は「関西には関西広域連合というものがあります。兵庫県がリーダーとして防災の連携を行っています。また、流域治水という考え方があります。大きな川の流域を一つのグループとしてみるということが始まっています。滋賀県が始めていて、全国に広げようとしています。流域で見るという考え方にスライドしていく必要があると考え、我々も提案しています。国もそれに反応してきているというのが現状です」と回答されました。

続いて、原田教授からOne Concernのソリューションの現状や課題、今後について質問いただきました。One ConcernのRaaSソリューションについて「災害の形は海外と日本の場合では違うと思いますが、その点はどのようにアジャストしているのでしょうか」と投げかけられました。

それに対し弊社の堺は「地震のモデルと洪水のモデルがあり、それぞれアプローチが異なります。まず、地震のモデルについては、機械学習を用いたモデルの構築は米国のデータをもとに行いましたが、日本に導入するにあたり、日本の建物の特性を考慮したり、過去の地震被害のデータを取り込むことにより、日本用に調整しています。洪水モデルについては、地形や土地利用状況などの影響を強く受けるので、可能な限りデータを収集してモデルに取り込み、そのうえで、過去の洪水による浸水データや河川流量のデータを取り込んで開発しています。」とコメントしました。

また、One Concernのソリューションの商用化についての質問に対しては「熊本市以外の別の市との取り組みもSOMPOさんと進めています。特に洪水は土地によって形態が変わるため、商用化に向けてモデルをブラッシュアップするというステップが必要になります」と今後の展望について語りました。

また、セミナー視聴者からの発災前に予測して減災につなげる取り組みやシステムはすでにあるのかという質問に対しては、「One Concernではレジリエンスプランニングというそれぞれの拠点に対してどういう災害リスクがあるのかを評価するソリューションと、災害レスポンスというソリューションがあります。前者については、200年や1000年に一度起こるような地震や洪水といった災害に対してどういうリスクがあるのかを事前に評価することができます。後者については、発災の直前直後、洪水であれば72時間前の気象予報を使いながら向こう3日間の被害予測を行うことで、あらかじめ人員を補強したり、防水処置を施すといった対策をとっていただくことも可能になります。」と回答しました。

One Concern RaaS プラットフォーム
One ConcecrnのRaaS(Resilience-as-a-Service:サービスとしてのレジリエンス)ソリューションについて紹介する洪水・地震エンジニアリングリードの堺淳一。

サステナブルな街づくりで現実のプラットフォーム

パナソニックが進める街づくり「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(以下、Fujisawa SST)」の防災への具体的な取り組みについて質問が挙がりました。

荒川氏は「阪神淡路大震災、東日本大震災のような規模感の災害を想定することは難しいですが、ハード面での備えをきちんと行っています。津波の対策として住宅の2階に上がるというルールや、耐震等級を3級にするなどが挙げられます。他には災害発生を想定した防災訓練をしています。大雨、犯罪など日常的な災害から大規模な防災の組み合わせで行っています」と語られました。

また「Fujisawa SSTでは災害時は情報共有が重要だと考えていて、災害が起こったときにも連絡が取りあえるようなコミュニティを作っています。15世帯ずつくらいで防災班を作り、そこに防災対策部が設置され、意思決定をして連絡がいくような仕組みを作っています」と意思決定の方法について語りました。また「Fujisawa SST内の公共用地を活用した「コミュニティソーラー」は、平常時には売電によりタウンマネジメントの収益源とするとともに、非常時には周辺地域の方々へ非常用電源として開放します」と近隣への取り組みを紹介されました。

最後に

原田教授からの「今日の議論を聞いて、プラットフォームとして三段階あると思います。注意喚起、希望をもたせる位置づけとしてのプラットフォームが映像。そして、自治体との連携や京大、One Concernのような会社が協力していくことで、新しい社会を作るプラットフォームとしての研究。最終段階としてパナソニックのようなサステナブルな街づくりで研究した成果の実証、課題検証を行う現実のプラットフォームが必要となります。この3段階のプラットフォームを研究・実用化のフェーズにおいてどのように考えていくかを心にとめながらこれからの研究活動を進めていきたいと思います」というお言葉でパネルディスカッションが締めくくられました。