米国で新型コロナウイルス感染症のワクチンの接種も大幅に進み、バイデン政権がパンデミック対策をリードする中、2021年はどのような年になるのでしょうか?
社内で開催されたオンラインQ&Aセッションで、2021年を切り抜ける上で米国が直面する主要な問題について、One Concernの最高緊急事態管理責任者で元FEMA長官のクレイグ・フューゲート(Craig Fugate)の見解を聞きました。新大統領の政権移行チームの元メンバーとして、新型コロナのほか、気候変動やレジリエンスなどのトピックに対するバイデン政権の対応など、2021年の見通しについて語っています。
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司会:米国が今コロナ禍で直面している課題としては、どのようなことが挙げられるでしょうか?
クレイグ:喫緊の課題は、ワクチンがあるからといって新型コロナの問題が終わるわけではないと国民に分かってもらうことです。
マスクを着用して、ソーシャルディスタンスを守り、移動や集会を最小限に抑えることが、新型コロナに対処する上で引き続き重要となります。現在のところ入院数は減少していますが、それと同時に、これまでよりもはるかに感染力が強い新しい変異株が確認されています。一部のワクチンは死亡と重症化を防ぐ上で非常に有効であることが分かり始めていますが、それでもコロナには感染し、感染が拡大する可能性があります。
ワクチンが接種可能になりましたが、依然として解決すべき問題がいくつかあります。その一つが、ワクチンを接種したくない人がどれくらいいるかということです。
このワクチン開発の多くは幹細胞技術のさまざまな要素を用いて行われているため、宗教上の理由でワクチンを受けたくない人がいるかもしれないという情報が入ってきています。そもそもワクチンの接種を認めていない宗教を信仰している人もいます。また、特定の疾患を持っている人はワクチン接種の対象者になりません。それ以外にも、政府を信用していない人や、ワクチンの制度を利用してチップを埋め込まれ監視されると思っている人もいます。さまざまな理由から、ワクチンを接種しないことを選択する人たちがいる可能性があります。
また、ワクチンを接種せずに病原体保有者となるリスクがある、非常に危機的な集団も存在します。このような集団は管理が困難になるため問題です。中には、不法滞在者もいます。あなたがそういう集団の一員であると想像してみてください。政府の職員がやって来て、「ワクチン接種が受けられるようにあなたの情報が必要です。私たちはその情報を保持して、2回目の接種を受けられるように21日間あなたを追跡します」と言われます。しかし、そうした人々にワクチンの接種をせず、機会も提供しなければ、病原体保有者になってしまいます。これはホームレスの人たちにも当てはまります。このように、まだまだ多くの課題があります。
ほとんどの人が、ワクチンを接種した後に新型コロナにかかっても、比較的軽症で済むことがわかっています。ワクチンの接種は、本格的に疾患を発症することなく、免疫システムを刺激する最善の方法だからです。すでに新型コロナにかかり検査で陽性となった人でも、自然発生の新型コロナに対する免疫反応による免疫力の程度はさまざまなため、米国疾病予防管理センター(CDC)はやはりワクチンを接種する必要があると考えるでしょう。CDCは新型コロナに2回感染した人の症例を有しています。つまり、自然発生の新型コロナは、CDCが望むほどの免疫力を与える可能性は低いので、ワクチンの効果に照らして評価されるでしょう。
このようにまだ分からないことはたくさんありますが、現時点で重要なのは、ワクチンが開発され接種が始まったとはいえ、これで終わりではないということです。新型コロナの終息には時間がかかります。少なくとも秋までは対処し続けることになるでしょう。ワクチンが効かない新しい変異株が発生すれば、さらに長引く可能性もあります。
司会:バイデン政権への移行は、パンデミックや、One Concernが特に関心を持っているインフラや気候変動、テクノロジーの分野において、どのような影響があるとお考えですか?
クレイグ:バイデン政権はすでに気候変動への対応を国家安全保障の緊急課題に据えて、重点的に取り組んでいます。現時点では主に温室効果ガスの削減に焦点を合わせているようですが、気候問題はすでに多くの影響をもたらしていることから、レジリエンスを高めることにも注目しています。
私が人々に伝え始めたことは、もはやこれは気候変動(climate change)ではなく、末尾に”d”が付いた変動”した”気候(climate changed)だということです。気候はすでに変動しており、その影響は重大であるとともに現在も進行しています。そのため気候変動活動家の間では、気候緩和に重点的に取り組み続ける必要があるという議論もあります。これは重要なことであり、新政権はそうしたアプローチを取っています。しかしその一方で、災害は頻度も深刻度も増していることから、取り組む分野や方法を変えて、災害に適応する必要があります。確実に言えるのは、バイデン政権の誰一人として、以前の状態に戻したり、過去を参考にしたいと思ったりはしていないということです。
変動が進んでいる気候に適応するというのは、まさにOne Concernのビジョンと同様に、過去を振り返ってばかりいるのではなく、変わり続ける将来のリスクに目を向けるということです。そしてその一環として、適切なテクノロジーやツールを開発し、将来のリスクを念頭に置いてどの分野で何に取り組むべきかを意思決定者が判断できるようにすることが挙げられます。
司会:レジリエンス、そしてバイデン政権がそこに重点的に取り組んでいくことについて伺いました。パンデミックの他にも、カリフォルニアで発生した記録的な山火事や、メキシコ湾に襲来し壊滅的な影響を与えた記録的なハリケーンシーズンがありました。これらの要因が合わさったことで、政権を超えて自治体のリーダーたちや民間企業のビジネスリーダーたちの課題として、レジリエンスの重要性が恒久的に高まったと思いますか?
クレイグ:最近、トップ企業40社からバイデン政権に対して気候変動への対応の要請がありました。災害や事業中断によって生じるコストは、持続可能なものではなくなっています。新型コロナに関係なく、過去4年間で費用が急増したものの一つとして災害補償があります。10億ドル規模の災害が、もはや10億ドル規模の災害と呼ぶ意味がないほど頻繁に至る所で発生しています。
災害支出に対する納税者の要求を減らすためには、その原因を減らさなければなりません。魔法のようなものはなく、どこにどのように取り組むかが重要です。問題は、気候変動が急速な変化を引き起こしているということです。私のPG&E社との取り組みにおいても、これまで(エネルギー消費について)沿岸部として考えられていた地域はもはや沿岸部ではなく内陸部と見なされています。なぜなら、これまでグリッドプランで考慮していなかったエアコンなどの設備が使用されるようになったためです。そしてこれはここ10年の間で起こった出来事です。状況はインフラ建設時に想定していたものよりも早く変化しています。これは大きな課題だと思います。
それに対するツールの開発、少なくともそのための資金を提供することを米国海洋大気庁(NOAA)は求められています。私たちが何に取り組んでいるのかを理解したいという要求も高まるでしょう。将来のリスクをどのように評価するのか。依存関係をどのように明らかにするのか。これに関する取り組みはすでに始まっています。その一つに病院のリスク軽減や補強があります。ただし、医療を提供している人たちが辿り着けない、あるいは最も医療を必要としている人たちが利用できなければ、それは単に建物のリスクを軽減しただけで、医療におけるリスクを軽減したとは言えません。
私たちは物理的な建物そのものよりも、その機能に目を向ける必要があります。病院に行けなくなると私はとても困ります。また、最も弱い立場にある人たちが病院を利用できなかったり、病院で働いている人たちが家や通勤手段を失ったり、また、他のインフラのサプライチェーンが途絶したら、困るのは私たちです。
そういった意味では、One Concernのこれまでの取り組みはより人々の共感を得られるようになると思いますし、物理的な建物や場所だけに注目するのではなく、その機能が、災害によってどのような影響を受けるかについて、人々が目を向けるきっかけになると思います。
司会:ありがとうございます。このセッションもそろそろ終わりです。最後に、チームに伝えたい言葉や考えはありますか?
クレイグ:マーフィーの法則は皆さんご存じかと思います。「何事であれ失敗する可能性のあるものは、いずれ失敗する。それも最悪のタイミングで」というものです。私が伝えたいことは、マーフィーは実は楽観主義者だったということです。マーフィーの法則こそ、私がこの取り組みを続けている理由であり、One Concernにいる理由だと思います。起き得る最悪のケースを念頭に置いて準備と取り組みを進められるようになれば、より良く備えることができます。悪いことが起こりませんようにと願うだけでは足りません。悪いことは起こり得ると認識する必要があります。さらに重要なこととして、それらの影響を軽減するために、異なるアプローチでできることに目を向ける必要があります。 悪いことが起こらないように願うだけでは戦略とは呼べません。
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